うつわびと 小野哲平
月

火

水

山

風

空

土

人がいる。土がある。

ものづくりを中心にした暮らしがしたいと移り住んだのは、高知の標高千四百五十メートルの棚田が広がる小さな集落だった。もとはお百姓が住んでいた土地。土蔵と石垣に先人の暮らしのあとが残る。工房と家屋を建て家族の暮らしが始まった。つれあいの早川ユミさんは小さな畑につくり、土地の人から分けてもらった種をまき育てている。果樹が植えられ、さくらんぼ、梅、杏が実をつける。バナナの葉は大人の背をはるかに超えて大きくなった。
「ここきて尖ったものはつくらなくなった」と小野哲平さんは言う。
朝が来て、夜が来る。時間というものの概念が薄れていき、時がゆっくりと漂うように過ぎていく。その密度の濃さに訪れる者たちは圧倒される。
村人の大半は農業を営んでいる。何事にもおおらかで、陶芸家の一家が住みついたことも自然な流れのように受け入れている。今年、一家は集落の神さまをお迎えする祭を世話する「頭屋(とうや)」になり、村の行事をキモチよく行なうための役目を担っている。お祭の話が印象的だ。
「ぼくのような他所から住み着いた人間が、村の行事を行なう役目をしていることを村の人たちは喜んでくれている」それが嬉しい、と笑った。
朝には山からの清らかな空気が流れ、夜にはどっしりとした暗闇が待っている。田植えの時期に月は棚田の水面に写り美しい姿を見せる。雨期には集落が雨雲のなかにすっぽり入り地面も人間も水を含む。収穫の秋、棚田に吹く風が稲穂をたなびかせる。そんな風景の一部のように、作物をつくる人がいて、農作業に汗かく人がいる。そして器という食の道具をつくる人がいる。
夕刻、薪をくべる風呂の煙突から煙が立ち昇り空へ吸い込まれていく。その煙が人の営みと結びつき、訪れる度に愛しいと感じられた。人がいて、土がある。そんな日々を淡々と描きたいと願っている。
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